ゴー宣DOJO

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泉美木蘭
2015.12.20 02:45

続・年の瀬の繁華街


ダースベイダーは、ずいぶん気の良さそうな、素朴な中年男性だった。


きのうの日記
のつづき。
忘年会シーズン、繁華街では、普段あまり酒を飲まない人が飲んで騒いで、
一年の記憶とともに財布やかばんやスマホやライトセイバーを
忘れていく事件が多発中。
ライトセイバーを忘れていったダースベイダーの扮装をした方は、
やはりまたダースベイダーの格好で、ご来店。
ヘルメットをかぽっとはずすと、照れくさそうな笑顔を見せた。

「きのうは、どうもすみません。甘い炭酸系のカクテルください」

丸顔で、誠実さと素朴さが顔に溢れている。
週末を利用して北海道から遊びに来ている会社経営者なのだそうだ。
しかし、衣装セットが本格的ですごい。
カウンターに置かれたヘルメットは、高さだけでも40センチ近く、
裾が広がっているので2人分の幅をとっているし、
肩も胸当ても本物に近い細工がほどこされており、胸元の計器は、通電して
ぴかぴかと光っていた。

「それ、光ってるってことは、バッテリーも積んでるんですね? 重そう・・・」
「そうそう! まあ重いのはダースベイダーの気分を楽しめていいもんでねえ」
「この格好で、北海道から? 大変ですね、飛行機ですか?」
「飛行機。さすがに衣装は荷物に詰めて運んだんだけどね。ホテルで着替えて」
「ライトセーバーとか、やっぱり機内持ち込みできないですよね」
「そう。全部預けて。結構大変よお。だから東京にいる間は着ないとさあ。
でも、この衣装かなり蒸れるんだよね。この寒いのに汗かいちゃって」

おしぼりを差し出すと、ダースベイダーはぺこりと頭を下げて、顔をふきはじめた。
もともと地元で、子供たちをたのしませるために、お祭りを催したり、
いろんな扮装をして登場するという趣味の会を結成している方なのだそうだ。
集団でスーパーマリオの格好をして、カートで街中を走りまわって驚かせ、
地元の新聞に取り上げられたこともあるという。
「子供たちがきゃーきゃー喜ぶからさあ。楽しくてやめられないんだよねえ」
ダースベイダー、本当にやさしそうな笑顔だった。
現在、お嫁さん探し中。肝心のスターウォーズはまだ観ていないそうだ。

それから、一カ月前にかばんを忘れて行ったきりだった男性が来店した。
30年以上になる長いお客さんだけど、愛称でしか呼んだことがなく、
誰ひとり本名も連絡先も知らないという。
仕方なく、そのままずっとかばんを預かっていた。
「ああ、ここにあったのか」
今年のうちに渡せてよかったけど、一カ月もかばん忘れたままで過ごせるって、
その度胸がすごい。

「人間、思い込みだからな。大事なものなんか、たいして持ち合わせちゃいないのさ」

そう言ってラム酒をあおると、胸ポケットからしわくちゃのお札を取り出し、
カウンターにぽんと置いて、「じゃ、またな」と男性は帰っていった。
あの人、スナフキンかもしれない・・・。

と思ったら、

アアっ、ちょっとおお! これじゃ代金、足りないんだけどおおおっ!!

あわてて追いかけたら、「ツケといてよ! うっしし!」とイタズラ坊主のように笑い、
走って逃げていった。
そーいう人なんです。

泉美木蘭

昭和52年、三重県生まれ。近畿大学文芸学部卒業後、起業するもたちまち人生袋小路。紆余曲折あって物書きに。小説『会社ごっこ』(太田出版)『オンナ部』(バジリコ)『エム女の手帖』(幻冬舎)『AiLARA「ナジャ」と「アイララ」の半世紀』(Echell-1)等。創作朗読「もくれん座」主宰『ヤマトタケル物語』『あわてんぼ!』『瓶の中の男』等。『小林よしのりライジング』にて社会時評『泉美木蘭のトンデモ見聞録』、幻冬舎Plusにて『オオカミ少女に気をつけろ!~欲望と世論とフェイクニュース』を連載中。東洋経済オンラインでも定期的に記事を執筆している。
TOKYO MX『モーニングCROSS』コメンテーター。
趣味は合気道とサルサ、ラテンDJ。

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